花本塗装店(大阪市)
建装材ニュース 平成8年7月10日号
仕事ぶりが看板 結果は後から着いてくる
花本塗装店のご主人、花本正吉さんは建築塗装歴11年。以前は寿司を握っていたというが、ひょんなことから工場塗装(機械などの)を手伝うことになり、見習いのようなことをしていたものの、「あ、これはやれそうだ。面白いし・・・・」と時を移さず独立、建築塗装に足を踏み入れた。色彩をあれこれ考えるのが好きという性格でもあったから、まさに水を得た格好で今日を迎えとぃる。
ゆくゆくは店舗を構えるという意気込みで ” 塗装店 “と名付けて事業を開始したが、やってみると電話一本で充分いける仕事、今なお事務所は自宅である。近くに倉庫を借りて、塗料や材料、塗装用具などを待機させている。このような形態で塗装業を自営しているケースは極めて多い。さて、この花本塗装店、リフォーム市場に対してどんな接点をもっているのか。
■「 ” リフォーム ” はしない 」
いまリフォームと言ったが、花本さんはこの言葉に良い印象を持っていない。「塗り替えの仕事は良くするが、リフォームは断っている」といった言い方をする。聞いてみると、こういうことだ。「皆が皆じゃないけど、リフォーム業者の紹介で塗装を請け負ってる業者はロクな仕事をしていない。きちんとした材料をちゃんと使わないし、塗装工程もきっちり踏まない。全体的に雑。料金的にだいぶ低く抑えられているかららしいけど、そういうのをしょっちゅう見聞きしているんで、ぼくの手掛ける塗り替えはリフォームとは違うと思っている。」
まずは低い塗装料金で仕事を持ってくる斡旋業者があり、次にそれを安価に請ける塗装業者がいて、そして雑な仕事に終わるーこんな図式が、「リフォーム」に対する悪印象を花本さんに持たせることになったのだ。期せずしてリフォーム塗装市場の一端を垣間見ることができた。
こうした実情は問題だが、塗り替えはやはり本当の意味でリフォームの一環である。当方としては今後も改修・改装・塗り替え・補修塗装などのような仕事をリフォーム塗装という言葉で表現していくが、ここでは花本さんの意を汲んで、以下「塗り替え」とのみ言うことにする。
■ 周辺に聞こえた誠実・丁寧・責任感
仕事は誠実に丁寧に、責任を持ってやるのがモットー、「職人気質(かたぎ)っていうやつで・・・」と照れつついうが、だからこそ「リフォーム」を嫌う。いい意味で頑固なのである。
素地の状態が万全でなければ塗装に取り掛からない。徹底的に補修・調整する。まっすぐに接合されているべき壁板が曲がっていようものなら、もう全然納得できない。その仕事をした業者を呼んで、やり直させる。自分も手伝って直す。塗り替えの時でもそうだ。きれいな平面、ちゃんとした下地状態を作り出して初めて塗装に移る。
いずれも、塗装が最終仕上げだからだ。いくら自分の仕事が完璧なものでも、もとが悪ければきれいに仕上がらない。「それが塗装のせいみたいな印象を持たれたんじゃたまらない」
こうした姿勢が仕事仲間やその周辺に聞こえていかないわけがない。信頼の置ける業者として、ほうぼうから仕事が入る。塗装仲間から、工務店から、建築設計士から、塗料販売店から・・・。人手の要る仕事が重なったりすると、手配・采配が大変で「大手塗装店や仲間にはそのつど随分お世話になっている」というが、やはり人望のなせるワザか。
「仕事を取るための ” 営業 ” みたいなことは別にしていない。あんまり好きじゃないし・・・」とは、これも職人気質。仕事ぶりが看板、というわけだ。
■ 塗り替え向けにもっと情報を
そんなふうに入ってくる仕事は、新築も塗り替えもあるが、「やっぱり前よりは塗り替えが増えたかなあ」と、同じ塗装の仕事だからという意識からか、このへんは執着していない様子。
現在の不景気風の影響は「多少あるかも。でも今も何件か相見積もりを出していて、そのうちのいくつかは決まるだろうから、先々、別に不安はない」。だが、回りを見回せば「ガタッと仕事が減った人も結構いるようだ」と全般的な不況は痛感しており、「だからリフォームみたいな妙な仕事をするハメになるんだろうが、それじゃあ全体の質が落ちて、塗装というもののイメージが悪くなるんじゃなかろうか」と塗装業の今後を憂える。
この取材の中で特に印象深かったのは、「塗料メーカーも販売店も、もう少しぼくら塗装業者のバックアップに前向きになってくれんもんかなあ」というツブヤキ。作りっぱなし売りっぱなしではなく、そこに付随する情報(工法や注意点、ワンポイントアドバイス、業界事情などなど)をもっと流してほしい。せめて尋ねたときには答えられるだけの態勢でいてほしい、ということ。「先行き塗り替えが多くなるんなら、じゃあ、そういう工事にはどんな材料をどういう風に使えばいいのかとか、それなりに配慮しなくちゃならないことが多々あるはず。自分の勉強だけでは限界がある」
待ちで仕事がやって来る「職人気質」の花本さんでも、いや、だからこそ、の切望である。
花本塗装店